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このままゼロコロナへ

2021年3月17日 藤巻晴行

要約
十分な休業補償をした上で行動規制と営業規制を一層強化するとともに、およそ5日ごとの全国民検査を導入して新型コロナウィルスの国内根絶を早めることで死者と経済的損失を大きく減らすことができます。



実効再生産数と感染機会削減率の推定

 第3波はピークアウトしたものの、ワクチン接種は遅々としており、感染者数が十分に下がり切らないまま4度目の増加トレンドを迎えています。 にもかかわらず政府は営業規制や検査体制など感染抑制策を強化するどころか緊急事態宣言の解除に動いています。このままワクチン頼みで感染抑制策を緩めてもいいものでしょうか。 今後取るべき感染抑制策の強さの判断材料として、最も基本的な感染者数予測モデルであるSIRモデルの 感染速度係数パラメータである「実効再生産数」と経済成長率(縮小率)の関係を基に、感染抑制策の強さと死者数、総損失額の関係を求めてみました。
 実際の感染者数の推計値を逆解析して推定した実効再生産数(α)の推移を右に示します。 昨年1月17日からの1ヶ月は大きく変動していますが、その平均値を、本格的な対策が講じられる前の(それ以前の生活における)再生産数である基本再生産数(α0) とします。その値は3.1でした。 基本再生産数に対する実効再生産数の削減割合(1-α/α0)を「感染機会削減率」としてその推移を右軸に示します。 5月下旬にはじつに90%を超えていたことがわかります。これをもう半年続けていたら、今頃は台湾、中国、ベトナム、ニュージーランドのように国内で撲滅状態に達することができたでしょう。

感染機会削減率と経済縮小の関係 

 実効再生産数を1以下にする(新規感染者数を減少に転じさせる)ためは、従来株の場合、67%以上の感染機会削減率が求められます。67%を維持するためにはどの程度の国内総生産(GDP)の縮小を受け入れなければならないのでしょうか。 感染機会削減率の第2、3、4四半期の平均値とそれぞれの四半期のGDPの前年度に対する縮小幅のGDP比を右に示します。 時を経るに連れGDP縮小幅が小さくなっており、これは感染機会削減率を徐々に下げ、大きな第3波を招いた要因でもあるのですが、第4四半期のGDPの対前年比が-1.4%で済んだのは朗報です。これまでの僕の解析では両者の関係を原点を通る直線と見ていましたが、どうやら感染機会削減率50%くらいまではGDPをほとんど減らすことなく削減できており、 それ以上感染機会を削減しようとするとサプライチェーンの分断など経済活動を大きく抑制せざるを得なくなる、と考えるべきなのでしょう。そこで、原点を通らない直線であてはめました。これをここでは[GDP成長率-削減率関数]と呼びます。 実際には、検査体制の拡充や知識と経験の蓄積により、むやみに生産活動を縮小しなくても感染機会をこれまでより削減できるようになった面もあるはずで、傾きはもっと小さい可能性が高いと思われますが、今回は実績ベースで原点を通らない回帰直線を求めました。 この勾配は、リモートワークの推進や作業工程の見直し、検査・追跡・保護の強化などを通じてまだ緩やかにする余地があるでしょう。
8月以降の政府の姿勢は、ワクチン接種の普及による問題解決まで実効再生産数を1前後に保とうとしていることのように見えます。  しかし、イギリスや南アやブラジルでの強力な変異体の出現は、ある程度の新規感染を容認する路線の過ちを示しています。
 また、最も広がっているイギリス由来の変異株B1.1.7の基本再生産数が従来株よりおよそ1.5倍 大きいため、67%の感染機会削減率では感染が拡大してしまいます。

変異株割合の推移

 神戸市は積極的に変異株の検査を行い、変異株割合の推移を公表しています。図3はそれを最小2乗法であてはめたロジスティック曲線を示しています。 厚生労働省が9日に発表した全国の変異株スクリーニング検査結果から変異株割合の各県感染者数での加重平均を求めたところ、2/24の時点で7.7%となります。神戸市発表の変異株割合の推移をロジスティック回帰し、同じ増加率と仮定した場合の3月14日時点の全国平均の変異株割合は29%となります。

国内根絶に向けたシミュレーション

 ニュージーランドや台湾など国内根絶に成功した国々に学んで今から根絶を目指すことの是非を検討するため、60日後からワクチン接種が本格化して毎日50万人に行われ、その有効性が100%と仮定して、 SIRモデルによるシミュレーションを行いました。 同モデルでは感染者数(Infected, I)と回復者数(Recovered, R)の増加速度は次式で与えられます。 (1)
ここで、tは時間(日)、αは実効再生産数、τは感染から陰性になるまでに要する日数、Pは人口、Vは1日あたりワクチン接種人数(人/日)、添字vは変異株の値です。回復者がもつ従来株に対する抗体は変異株に対しても有効で、その逆も然り、かつ抗体は持続すると仮定しています。 上記の連立常微分方程式を時間増分を1日とするオイラー法により積分し、損失や死者数を予測しました。 τ は14日とし、初期値として、 感染者の変異株割合は25%とし、上記の逆解析で得られた3月13日時点のI=42,000、 Iv=14,000R=1350,000を与えました。 変異株の基本再生産数は4.5としました。致死率は、高齢者にワクチンが優先接種されていることからこれまでより低く設定すべきかもしれませんが、変異株の致死率が格段に高い、という報告もあるため、2%としました。
 損失額の見積もりには次の式を用いました。
(2)
ここで、 αcは従来型の削減策による実効再生産数で、ここでは αに等しいです。感染機会削減率に応じて減少したGDPを365で割って撲滅までの日数を乗じました。新規感染者が0となった時点で渡航制限と検疫以外の感染機会の削減策をすべてやめ、もとの生活に戻るものとしました。 海外からの感染者の受け入れは0とし、渡航制限と検疫による経済的損失は0としました。治療に要する費用と休業に伴う損失は、無症状感染者も含め、平均で1日1人10万円とし、致死率は2%としました。
 以上の条件下での新規感染者数の推移予測を図4に示します。70%の場合、従来株の新規感染者数は減少するのですが、変異株のそれは増加し、ワクチン接種の進行に伴いようやくピークアウトします。78%以上で変異株の新規感染者もようやく減少します。 一定の削減率の下でも新規感染者数ははじめ急減し、やがて低下がゆるやかになり、0になるには90%でも212日かかます。 ほぼ収束したように見えても根絶にはまだ遠く、規制を緩めてはならないのが政治的にも難しいところです。
 感染機会削減率と損失額および死者数の関係を図5に示します。当然のことながら、感染機会削減率70%以下では数十万人の死者が出る上に総治療費も嵩むため問題外です。 削減率が増えるに連れGDPが急減するため、85%削減ではGDP損失額が61兆円に達してしまいます。それ以上削減すると、収束が早まる効果が上回り、GDP損失額を(それほど顕著でないにしても)抑えることができます。 いずれにしても全国民定期検査を実施しないのであれば、約半年で根絶できる95%削減を目指すべきでしょう。もちろん、休業という、感染を減らす「公益的な無作為」に十分な補償をすべきです。当然、オリンピックは中止です。政府が根絶路線を放棄している最大の理由はオリンピックへの固執でしょう。大きな第1波を招いた最大の要因がオリンピック開催のための感染拡大の隠蔽なら、流行の持続の大きな理由の一つもオリンピックです。

全国民定期検査の効果のシミュレーション

 実際には5月並みの厳しい行動制限を半年続けるのは政治的に難しいかも知れません。しかし、前述のように感染機会の削減は必ずしも強い行動制限を意味しません。とりわけ最近登場した民間格安PCR検査の登場は朗報です。もし全国民が14日毎に検査を受ければ、感染者の平均的なウィルス排出可能期間は半減し、実効再生産数は更に半減します。この総検査費用は、検査費用を2000円とすると、年間6.6兆円であり、不可能な額ではありません。PCR検査能力の制約は、抗原検査の陽性者のみPCR検査で確認することで補えるでしょう。
 全国民がft日毎に検査を受ければ、感度が100%であれば実効再生産数は次式のように更に減ります。
(3)
全国民定期検査による削減寄与度をzとすると、
(4)
となりますので、αcは次式で与えられます。
(5)
 所与のzのもとで、(2)式でαc=αとして得たyを(5)式に代入してαcを求め、それを(3)式をftについて整理した式に代入してftを求めました。
 図5には検査単価を2000円とおき、zを0.25とした場合の検査周期、総検査費用ならびに総損失額もプロットされています。 全国民定期検査を導入することにより、x=90%前後までは総損失額を大きく減らせることがわかります。 PCR検査体制をそこまで急速に広げることは困難ですが、プール形式でもいいですし、安価で迅速なキットが次々に開発されている抗原検査で十分です。感染力の高い感染者の大半を発見し、 隔離することが肝心なので、感度がPCRほど高い必要はありません。大量頻回抗原検査はチェコオーストリアなどで既に実施されています。 国民民主党が予算組み換え動議で頻回抗原検査を提案しているのは評価できます。ともあれ、大規模検査体制が整うまでは感染者の多い都道府県や業種に絞ってもいいので、一日も早く無症状者への大量検査を実施すべきです。

パラメータが不適切とお考えでしたら実行ファイル(5.5MB)をアップロードしましたので、変えて実行してみて下さい。ソースコードはGPL version 2で公開します。Lazarusで編集してコンパイルできます。

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