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日本における実際の新型コロナウィルス感染者数と死者数の推定

2021年1月2日 藤巻晴行

実際の感染者数の推定

 問題解決の基本は、現状の正確な把握ですが、今回ほどこの基本がおろそかにされていると感じたことはありません。とりわけ4月までは政府はPCR検査体制の拡充に努めるどころか発熱4日ルールにみられるようにPCR検査を意図的に抑制し、大きな死者数を招きました。 たとえ責任を追求されることになろうとも、客観的情勢の正確な把握と公開に努め、国民的議論を通じて対策の立案に活かさずに希望的観測にすがる姿勢は、戦前戦中からそれほど変わっていないように見えます。未だに全国民を対象とした無作為抽出による定期的PCR検査も抗体検査も行われていません。これでは大きな経済的損失を伴う感染機会の抑制策を強めるべきかどうかの判断も誤りがちです。
 厚労省は6月上旬に東京都、大阪府、宮城県を対象とした無作為抽出抗体検査を行い、東京都で0.1%、大阪府で0.17%、宮城県で0.03%という結果を得ました。 慶応大学病院が4月中旬に行った 新型コロナウイルス以外の患者でPCR検査を行ったところ6%が陽性だったという結果と桁違いですが、新宿区の感染率が際立って高かったことに加え、やはり院内感染があったのではないかと思われます。ともあれ、今回の厚労省の検査結果が正しいとすれば、非大都市圏の住民割合を考慮すると、日本全国の住民の6月上旬の時点の抗体保有率は(0.1 + 0.17 + 0.03 + 0.03) / 4 = 0.083%程度、つまり累計感染者が約104,000人ということになります。同時期の累計感染確認数が約17,000人ですから、6.2倍となります。幸い、その後の検査拡充の声に押され、濃厚接触者でなくてもかなり積極的に検査が行われるようになったものの、未だに類似症状があっても感染者との接触の可能性を示せない限り、公的なPCR検査はなかなか受けさせてもらえていません。12月前半に横須賀市が行った希望者からの抽選による抗体検査の陽性率は0.44%で、同時期の累計感染確認数の3.4倍でした。従って、現在でも実際の新規感染者数は公表値の3倍程度あると見られます。そこで5月15日までは公表値の7倍、6月14日以降は検査体制および基準の拡充により3倍、5月16日から6月13日までは直線的に7倍から3倍まで補正係数が低下したと仮定して、週平均の1日あたり新規感染者の変化を推定した結果を右に示します。累計感染者数は12月31日時点で約77万人で、公表数の3.3倍となりました。

実際の死者数の推定

 感染者を数分の一に過小評価しているのであれば、死者数もかなり過小評価しているはずです。実際、死亡後に感染が確認されたケースは数多く報道されています。報道されたのは氷山の一角で、死後のPCR検査が認められるケースは少なく、とりわけ孤独死したようなケースでは死後のPCR検査を求める遺族も居ない場合が少なくないでしょう。図2の黒線で示すように、各週の死亡者数は冬に多く、夏に少ない季節変化をもっています。一方、高齢化に伴い、毎年の同時期の値は漸増しています。そこで、前年から6年前の5年間の同時期の死者数を時間を独立変数として線型回帰分析し、各年の各週の死亡者数を推計したもの(線形推定値)も赤色で記しています。2019年の末までかなりよく一致してることがわかります。参考までに、国立感染症研究所によるEuroMOMOとよばれるアルゴリズムによる推計値も黄色で示しました。 2017年の年初から2019年の年末までの線形推定値はEuroMOMOよりも小さな残差二乗和平方根(RMSE)を与えました。 しかしながら、今年に入って大きく過大評価しています。これは暖冬とインフルエンザが流行しなかったことなどが考えられます。また、感染が拡大した3月以降も新型コロナウィルスによる死亡確認の多い5月上旬と8月下旬を除き過大評価しています。これは感染機会を避ける生活により、交通事故、労働災害、その他の感染症が減ったことなどが理由として考えられます。そこで、人口あたりの死者数がきわめて少ない岩手、新潟、山梨、和歌山、香川、鳥取、宮崎の7県の各週の実死亡者数と線形推定値との合計の比を線形推定値に乗じて補正しました。 これを「非感染地域補正推定値」とします。もし全国で平年に比べこれらの感染の少ない地域と同程度の死亡数の減少が見られ、かつ新型コロナウィルス感染死および感染拡大による医療崩壊や受診控え等による間接死も無ければ、死亡数は補正値と一致するはずです。実際、1月中旬から4月末まではよく一致しています。しかしながら、5月前半や6月中旬、8月後半に実死亡数は補正推定値を大きく上回っています。4月はじめから8月末までのその合計は9897人でした。 8月31日の新型コロナウィルス累計感染死の公表数は1300人ですから、その7.6倍です。その比すなわち捕捉率が12月31日の時点で変わらないとすれば、12月31日までに新型コロナウィルスによって(医療崩壊や受診控え等による間接死も含め)国内で26,539人亡くなっていることになります。少なくとも1万人は超えているでしょう。

線形推定に用いたプログラムのソースコード。Lazaruでコンパイルできます。GPL ver.2で公開します。
非感染地域補正推定値のワークシート

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