日本人の世論と政党支持のギャップと政権交代のために必要なこと

2024年9月15日 藤巻晴行

サイバー言論空間では、立憲民主党の党首代表戦で原発再稼働や消費税等に関して右寄りの政策を打ち出している候補に対する厳しい批判がしばしば見られるます。果たして右にウイングを伸ばすことで政権交代が可能になるのかどうか、世論調査を下に考えてみました。右の図 は国民世論が大きく分かれている10の重要政策課題についての世論調査結果です(右(保守)が1となるように尋ね方を逆にしているものがあります)。世論調査結果を見る限り、日本人の平均的世論は右傾化が進んでいるとされる今なお意外と中道的であることがわかります。わからないと答えた人を引いた賛成率/(賛成率+反対率)を「相対賛成率」とすると、その平均値は49%です。もちろん、消費税や自衛隊そのものに異議を唱える人が少数になるなど数十年前と比べ中道ラインが右に動いているがゆえということもあります。

シミュレーション方法

ここで、1000人の仮想有権者の「左右度」を、それぞれの回答が他の回答と無関係であると仮定して、10の質問に「はい」と答えた数の合計値から5を引いた値で表します。(0〜1の)乱数が相対賛成率を下回った場合に1、上回った場合に0とし、各人の10の質問に対する値を合計しました。実際には、ある人が貧しいのは怠惰だからではない、といった性善的人間観から格差是正重視かつ平和主義など、相互に相関する場合が多いとは思いますが、格差是正を志向しながら外交政策としてはタカ派だったり、雇用を重視するが故に環境政策に批判的といった人は多く、各政策への賛同は整合性はあまり考えずに同一人物の中では独立していると考えた方が妥当ではないかと思います。それにしても全て賛成あるいは全て反対の「一貫右翼」あるいは「一貫左翼」は有権者の3%ずつ程度はいると思われますので、まず3%ずつの仮想有権者は全て1もしくは0とし、さらに後述する立憲民主党と公明党と同じ回答をする仮想有権者も3%ずつ居るものとして、
=IF(OR(RAND() <
相対賛成率 - 0.06, RAND() < 0.06), 1, 0)
の式で各質問への回答を得ました。

結果と考察

左右度の度数分布を右に示します。
左右度の平均値は-0.28で、左右対称の正規分布に近く、日本人は意外と中道的なことがわかります。選挙公約や国会議決行動などから各政党の「回答」を下の表のように得て左右度を求めると、意外な点が3つあります。
各政党の公約
自民党公明党国民民主党立憲民主党共産党ソース
核兵器禁止条約に参加しない111102022/8/2東京
敵基地攻撃能力の保有111002023/5/6共同通信
防衛費倍増110.5002023/5/6共同通信
大規模金融緩和継続111002023/3/14 NHK
消費税引き下げない110002021/10/20朝日
IR整備を進めるべき110.5002020/1/15 NHK
選択的夫婦別姓を認めない100002023/3/25内閣府
原発運転期間延長111002022/12/13NHK
憲法を改正して「緊急事態条項」111002022/5/9NHK
企業団体献金禁止に反対111002024/5毎日
  1. 日本共産党は-5, 自由民主党は+5であり、左右の両極に位置するのは当然として、ではなぜ「一貫右翼」の自民党の支持率が共産党の10倍近くもあるのか
  2. 中道を標榜している公明党や立憲民主党がそれぞれ自民党と共産党に近いこと
  3. 左右度が0に近く、もっと多くの支持が得られてもおかしくないはずの国民民主党の支持率が共産党以下であること
1から、日本共産党と自由民主党の支持率の極端な差は、個々の政策に基づいているというよりも、長いものに巻かれがちな国民性、高度経済成長時代に政権を担った政党への揺るぎない信頼や、日本共産党と中国共産党との同一視など、安定感、安心感、信頼感が大きいのではないかと思います。1と3から、世論と政党支持は必ずしも一致しないということです。ならばこのまま理念と信念に基づいた公約を掲げて続ければいいのかというと、それも違うと思います。不一致の大きな要因が、政権運営実績の不足によるものだからです。もう一つの大きな要因は選挙運動の動員力でしょう。省略しましたが、左右度が共産党に近い社民党の支持率や得票数は共産党の1/4程度です。 2から、立憲民主党の党首代表戦において4名中2名から政策の右シフトが掲げられているのは、より多くの中道の有権者からの支持を得るというねらいが見て取れます。それに対する批判は多いのですが、50%以上の相対得票率を取らなければ政権は取れず、公約はほどんど実現できないのです。これまでより右寄りの政策を掲げる代表選の候補者は、中道票を得るために己の信条とはかけ離れた政策を掲げている可能性も十分考えられますので、あまり強い言葉での批判は控えるべきです。右の図で言えば、-5から0の間の積分は45%で半数に届きませんが、-5から1の間の積分は68%で、政策獲得の可能性が一気に高まります。1ということは、上の10の質問のうち4つは賛成するということです。かなり苦しい政権公約作りになるでしょうが、必要な痛みでしょう。
各政策課題に対する国民世論を己の信じる正しい方向に導いてゆくことは、政党や政治家よりも個別の運動組織やジャーナリストや作家や教員や研究者やSNSや署名活動などを通じて知人に訴える個々人の役割で、党勢拡大や選挙運動と並行して進めるべき大切な事業です。

まとめ

右寄りの政策転換への批判には頷ける意見も多く心情的にも共感することが多いのですが、中道よりやや右の票を取り込まなければ、政策を実現するための政権は取れないどころか小選挙区制の下では改憲発議阻止に必要な1/3の確保もおぼつかないことは理解すべきではないでしょうか。アメリカ民主党のサンダース上院議員も左右度は-4あたりでしょうが、民主党に留まり、バイデンやハリスをしっかり支え、提言した諸政策を部分的に実現してきています。自公の支持率は実際の世論とはかけ離れて高く、この歪みは中道左派政党によるさらなる政権担当の経験と実績なしには正せないと思われます。
なお、左右度なので左を負に取りましたが、負の値には後ろ向きなイメージがつきまといます。左翼は革新あるいは進歩派(progressive)とも呼ばれ、歴史的には旧来の差別構造や権威主義的体制に対する挑戦者であり改革案の提案者です。今後も議会制民主主義の下での政権獲得を通じて、よりましな未来を一歩一歩切り拓いていってほしいものです。


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